HPVワクチンとは?
HPVワクチンとは子宮頸がんワクチンのことです。え?「がん」ってワクチンで防げるの?と思った方は、是非最後までこの記事を読んで下さい。HPVって聞いたことないよっていう方は「HPVって何なん?」という記事を参考にして下さいね。
HPVワクチンの種類
HPVワクチンには、2価・4価・9価の3種類があります。それぞれの特徴は以下の通り。いずれも3回の接種が必要で、接種完了までに半年かかります。
※ただし、9価ワクチンについては、9歳以上15歳未満の女性では2回接種で十分な効果が得られることが確認、承認されました。1回目接種から6-12ヶ月後に2回目接種を受ければよく、スケジュール的にも負担が少なくなっています。今後、公費接種を受けるなら「シルガード9一択」と言ってもいいでしょう。
ワクチンの種類 | ワクチンの名称 | 予防できるHPV | 公費対象 | 接種回数 |
---|---|---|---|---|
2価 | サーバリックス | 16,18 | ○ | 3回 |
4価 | ガーダシル | 6,11,16,18 | ○ | 3回 |
9価 | シルガード9 | 6,11,16,18 31,33,45,52,58 | 2023/4月~ | 2-3回※ |
歴史的背景
2013年4月、小学6年生~高校1年生の女子を対象にHPVワクチン(2価・4価)の定期接種(公費負担)が開始されました。他の先進国から数年遅れての開始でした。ところが、慢性の痛みや運動機能の障害など「多様な症状」がHPVワクチン接種と関連しているのではないかと疑われ、科学的根拠もなくマスコミのあおり報道が続き、2013年6月より積極的勧奨を差し控えられる事態に陥りました。後にこの「多様な症状」とHPVワクチンとの因果関係は科学的根拠を持って否定されましたが、なかなか積極的勧奨の再開には至らず、2021年4月にようやく接種勧奨再開および接種機会を逃した方達へのキャッチアップ接種が始まりました。積極的勧奨が差し控えられていた期間も、公費接種は継続されていましたが、接種率は1%以下に落ち込みました。この間に諸外国では子宮頸部異形成や子宮頸がん減少というワクチン接種効果が続々と報告されていましたが、ワクチン接種が進まない日本では先進国の中でポツンと取り残されるという残念な結果になってしまいました。
HPVワクチンの安全性についての評価
2016年12月には、厚生労働省研究班(祖父江班)の全国疫学調査の結果が報告され、HPVワクチン接種歴のない女子でも、HPVワクチン接種歴のある女子に報告されている症状と同様の「多様な症状」を呈する人が一定数(12〜18歳女子では10万人あたり20.4人)存在すること、すなわち、「多様な症状」がHPVワクチン接種後に特有の症状ではないことが示されました。さらに、名古屋市で行われたアンケート調査(名古屋スタディ)では、24種類の「多様な症状」の頻度がHPVワクチンを接種した女子と接種しなかった女子で有意な差がなかったことが示されました。世界保健機関(WHO)も世界中の最新データを継続的に評価し、HPVワクチンの推奨を変更しなければならないような安全性の問題は見つかっていないと発表しています。
HPVワクチンの効果
ほとんどすべての子宮頸がんはHPV感染が原因であるとされています。そのうち2価・4価ワクチンがカバーするHPV16型と18型が占める割合は約70%、9価ワクチンがカバーする31,33,45,52,58型を含めると約90%の子宮頸がん関連HPV感染に効果が期待できます。
HPV16型・18型によるCIN2+(中等度異形成以上)を予防する効果として、子宮頸がんワクチンの有効性は90%以上と報告されています。これに基づいて計算すると、子宮頸がんの罹患リスクについては10万人あたり1322人(2014年統計より)のうち、859~595人が罹患を回避でき、子宮頸がんによる死亡リスクについては10万人あたり321人(2014年統計より)のうち、209~144人が死亡を回避できると推計されます(厚生労働省資料より)。
このように、HPVワクチンは効果的に子宮頸がんのリスクを低下させることができますが、決して100%の子宮頸がんを予防できるわけではありません。そのため、ワクチンを接種しても定期的な子宮頸がん検診は欠かせません。
今後のHPVワクチン
キャッチアップ接種について
2022年4月より接種機会を逃した方達へのキャッチアップ接種が始まりました。対象者は1997年度生まれ~2005年度生まれの9学年、期間は3年間(2022年4月~2025年3月)です。
9価ワクチンの公費接種について
2023年4月より9価ワクチンについても公費接種が可能となる見込みです。ただし、既に2価あるいは4価ワクチンを3回接種している方は、新たに9価ワクチンの公費接種を受けることはできません。また、2価・4価ワクチンで1回~2回接種した方が、残りの接種を9価ワクチンで行うことは推奨されていません(メリット・デメリットについて接種担当医と十分に相談して下さい)。今からワクチン接種年齢に入る方達は、選択肢が増えて迷うかもしれませんが、せっかくなら少しでも多くのHPVの型をカバーできる9価ワクチン接種を検討してはどうでしょうか?
男子への接種について
4価ワクチンのガーダシルは、男子への接種について認可を受けています。今のところ公費で接種できるのは女子だけですが、大切な人を子宮頸がんから守るためにも、是非男の子も性交渉をもつ前に、HPVワクチンを受けてほしいと思います。
接種回数について
現在いずれのHPVワクチンも3回の接種が必要とされていますが、諸外国では9価ワクチンの2回接種が主流となってきています。日本でも将来的には2回接種となる時代がくるかもしれません。そして、接種対象年齢も11-13歳など、より低年齢推奨となる可能性があります。
諸外国でのHPVワクチン接種状況
欧米諸国では学校などでの集団接種として男女ともに9価ワクチンが接種されることが多いようです。20代半ばまで無料で接種される国もありますが、15歳以上では接種回数が3回とされることがあります。
国名 | ワクチン種類 | 年齢 | 性別 | 回数 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
アメリカ | 9価 | 11-12歳 | 男女 | 2回 | 18歳までキャッチアップ接種可 ≧15歳では3回接種 |
イギリス | 9価 | 12-13歳 | 男女 | 2回 | 25歳までキャッチアップ接種可 |
カナダ | 9価 | 9-14歳 | 男女 | 2回 | 免疫不全の場合は3回接種 |
オーストラリア | 9価 | 12-13歳 | 男女 | 1回 | 25歳までキャッチアップ接種可 |
ニュージーランド | 9価 | 11-12歳 | 男女 | 2回 | 26歳まで無料接種 ≧15歳では3回接種 |
イギリス:UK Health Security Agenc Easy-read guide to the HPV vaccination
カナダ:Canadian Immunization Guide: Table of updates
オーストラリア:National Immunisation Program Schedule
ニュージーランド:The New Zealand HPV Project
まとめ
- HPVワクチンには2価・4価・9価の3種類がありこれから接種開始する人は9価がオススメ。
- 若い女性に出現する「多様な症状」がHPVワクチン接種による副反応であると誤解され、ワクチン普及が遅れたのは日本の黒歴史で、実際にはワクチンは安全に接種することができる。
- HPVはありふれたウイルスなので、最初の性交渉をもつ前にHPVワクチンを接種完了することが、感染予防には重要。
コメント